【序章:闇夜】

<夜明け前、アッバ=イェラーシ国内黒金狼傭兵団駐屯地>

 微かな明かりだけの灯る幕舎の中、傭兵達は一様に押し黙って座っていた。不安げな彼らの視線は、中心に座す隻眼の男に注がれている。
「皆も気付いてるとは思うが、クレイエの一件から我々は追われる身となった」
 傭兵達の見守る中、男は静かに口を開いた。
「報告によると、やはり港に白銀十字柏騎士団が待ち受けている。港についたが最後、謂れの無い容疑で全員捕縛、恐らくそのまま処刑だろう。残念だが、我々の商売もこれまでだ。
 本日をもって、黒金狼傭兵団は解散する」

 言葉が終わるか終わらないかのうちに、小さなどよめきが起こる。しかしそれもすぐに収まり、男の言葉を待ちわびるように再び沈黙が訪れた。
「夜明け前にここを個別に発ち、大きな港を避けて他国へ逃げろ。新しい生活を始めるための支度金も持たせたつもりだ。これから先、決して黒金狼やクレイエの事を口外するな。覚えておいてくれ。それでもなお、危険から逃げ遂せられる保障は無い」
 一体どうしてこんな事に。そう言いたげに立ち上がりかけた者も居たが、言葉を飲み込んで腰を落とした。彼に目を向けた者達もただ黙して、視線を下へと落とした。
 隻眼の男もまた、赤い瞳を閉じて暫しの間俯いた。
「しかし全く寄る辺が無いわけでも無い。他国は勿論だが、ギルドもまだ信用できる。船を使うならギルドの伝手を頼れ。それからもし何か気になる事があったら、記者ギルドに行ってくれ。イポリト・ダ・トレンティーノと言う記者が所属している。元黒金狼の団員で、俺の古い知り合いだ。呼び出し用件はなんでもいい。そいつに聞けば解決策くらいは出せるだろう」
 そこまで言うと、男は徐に立ち上がった。

「さて、それでは名残惜しいがこの辺で終いにしよう。
 あとはただ生き延びる事。以上だ」


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